中川教授の触媒学講座 (8):担持触媒の調製法
純物質ではない不均一系触媒、特に担体を用いる担持金属触媒・担持金属酸化物触媒は、他の材料学・合成化学とは異なるアプローチにより調製が行われます。 (※純物質ではないため、「合成」とは呼ばず、「調製」と呼ぶ) 以下に、代表的な調製法を示します。
- 含浸法
担体に活性成分元素の溶液(前駆体溶液)を染み込ませ、乾燥した後、熱分解と還元など化学処理を行って活性成分を形成させる方法です。 担持触媒の最も一般的な調製法で、さらにいくつかの方法に細分化されます。 どんな活性成分元素化合物が前駆体に適するかは、担体次第で変わります。 一般的には、酸性担体には陽イオン側に活性成分元素が含まれる化合物(例えば[Pt(NH3)4]Cl2)、 中性から塩基性の担体には陰イオン側に活性成分元素が含まれる化合物(例えばH2[PtCl6])、が適します。 - 蒸発乾固法
含浸法の一種です。前駆体溶液に担体を入れて、ロータリーエバポレーターなどで均一に混ぜながら溶媒を蒸発させます。 小規模の実験室での調製に適しています。担持量を任意に設定できます。 - スプレー乾燥法
含浸法の一種です。 担体を混合・排気しながら前駆体溶液をスプレーで噴霧し、担体表面に堆積させていく方法です。 大規模の調製に適しています。 担持量を任意に設定できます。 - incipient wetness法
含浸法の一種で、実験室では最も一般的な方法です。 担体を混合しつつ前駆体溶液を滴下して濡らした後に乾燥させます。 その際、前駆体溶液の量を担体が吸収できる量と同じにします。 蒸発乾固法より粒子径を小さくできることが特徴です。 前駆体溶液の量が限られるため、前駆体の溶解度により担持量に制約があります。 担持量を大きくする際は、混合・乾燥しながら、前駆体溶液の蒸発に合わせて同じ量の前駆体溶液を滴下し続ける、といった手法がとられます。 - ポアフィリング法
含浸法の一種で、incipient wetness法の変形です。 担体を減圧して担体内部の細孔から空気を除去し、細孔容積と同じ量の前駆体溶液を注入して担体の細孔に前駆体を満たします。 その後乾燥させます。 incipient wetness法と同様、前駆体の溶解度により担持量に制約があります。
- 平衡吸着法、イオン交換法
前駆体溶液に担体を入れて前駆体を吸着させ、ろ過して前駆体が吸着した担体を回収します。 吸着が担体のイオン交換サイト上でのイオン交換による場合、イオン交換法と呼びます。 前駆体が分子レベルで担体表面に分散するため、きわめて小さい粒子が調製できることがメリットです。 一方、前駆体の一部のみが担体上に吸着するため、担持量の制御が難しく、また担持量を大きくすることができません。 実際の担持量を元素分析により実測することが不可欠です。 - 析出沈殿法
担持金触媒の調製によく用いられます。 前駆体溶液に担体を入れて分散させ、混合しながら沈殿剤溶液を加え、活性成分を担体表面に固体として析出させる方法です。 酸性の前駆体溶液を用い、沈殿剤として塩基を用いるのが標準的です。 沈殿剤が局所的に高濃度になると不均一な沈殿を起こすので、十分混合しつつ沈殿剤溶液はゆっくり加える必要があります。 熱分解により塩基を発生させる尿素水溶液を沈殿剤に用いる場合もあります。 均質性を高めるため、沈殿剤投入終了後も数時間混合を続け(熟成)、その後固体をろ過して回収します。 条件を適切に選べば前駆体全量を担持させることができ、担持量も制御可能です。 沈殿剤である塩基の添加により担体の表面状態が変化する可能性に注意が必要です。 - 共沈法
担体と活性成分を同時に形成させる方法です。 担体の前駆体と活性成分の前駆体の混合溶液(通常酸性)に、塩基性の沈殿剤溶液を加えて両方を固体として析出させます。 析出沈殿法と同様、沈殿剤が局所的に高濃度にならないよう十分に混合しつつゆっくり沈殿剤溶液を加え、また加えた後も数時間混合を続けます(熟成)。 担持量が大きな触媒の調製に適していますが、全成分が固体に変化するとは限らないため、調製後に担持量の実測が必要になります。