中川教授の触媒学講座 (7):他の不均一系触媒
酸化物触媒
酸塩基反応では酸化物触媒がよく用いられます。 固体触媒では、酸点と塩基点を反応系中に共存させることができることが大きな特徴で、酸と塩基を共存させると中和して消滅してしまう均一系ではできない反応が実現できる可能性があります。 酸塩基反応以外にも、酸化反応や還元反応で用いられる酸化物触媒もあります。 酸化物触媒の活性成分は貴金属ほど高価ではないですが、活性点1個あたりの活性はそこまで高くないことが多く、やはり絶対的な活性を稼ぐために比表面積が大きいことが重要になります。 担体は用いる場合と用いない場合両方があります。
様々な酸化物が触媒として使われていますが、ゼオライトと呼ばれる一群の物質はとりわけ重要です。 ゼオライトは結晶性で結晶構造内部に細孔構造を持ったケイ素とアルミニウムの複合酸化物で、ゼオライトの種類ごとに決まった分子程度のサイズの細孔、酸機能、(種類にもよりますが)高い安定性から魅力的な触媒材料です。 規則正しい細孔構造を活かして立体選択性が発現することがあり、工業的なp-キシレンの合成で利用されています。 一方、複雑で大きい分子の反応では、反応物が細孔に入らず細孔構造がデメリットとなってしまうこともあります。
酸化物触媒の機構と速度論
酸化物触媒による反応の多くは、金属触媒同様、触媒表面(多くは酸点)に反応物が吸着して活性化されて反応するLangmuir-Hinshelwood機構でモデル化できます。 固体酸による反応は劣化が速いことが多いので、測定した反応速度が劣化の影響を受けていないか注意する必要があります。
酸化物触媒による気相・高温での酸化反応は、Mars-van Krevelen機構(別名:レドックス機構)と呼ばれる機構が典型的です。 この機構では、酸化物触媒と基質が反応して生成物と還元された触媒になり、続いて還元された触媒が酸素により再酸化されて元の触媒に戻ります。 高温では吸着状態となっている割合が小さくなる(吸着するとエントロピーが下がるので吸着の平衡は高温では不利)ため、吸着の飽和や競争吸着は無視できます。 機構後段の触媒再酸化のステップが十分速ければ、機構前段の触媒と基質との反応が律速段階となり、反応速度は単純に触媒量と基質分圧双方に1次、酸素分圧には0次となります。
Mars-van Krevelen機構を逆に回した還元反応もあります(reverse Mars-van Krevelen機構)。 酸化物触媒と水素が反応して触媒が還元され、還元した触媒と基質が反応して還元生成物ができるとともに触媒が元の状態に戻ります。 反応速度は、Mars-van Krevelen機構と同様、触媒量と基質分圧双方に1次、水素分圧に0次、が理想的な速度式となります。 しかし、水素分圧を高めると必要以上に触媒が還元され、むしろ速度が低下する、という場合もあります。
酸化物触媒の劣化
酸化物触媒の劣化の主な要因として以下が挙げられます。
- 有機物の析出・コーキング
酸反応では有機物が重合する副反応が起こりやすく、不揮発性・不溶性の成分が活性点を覆ってしまう劣化が非常に起こりやすいです。 高温では重合物の分解が進んで炭素に変化し、コークとなります。 炭素への分解まで起きていない場合でも、あまり正確ではないですがコーキングと呼ぶ場合もあります。 - 構造変化・溶出
溶媒への溶解、水や酸性物質との反応などで構造変化を起こし劣化につながることはあり得ます。 - 再生時の焼結
酸化物触媒では広義のコーキングが起こりやすく、焼成による再生処理を頻繁に行うことになります。 再生処理では高温となるため、焼結が起こって表面積が低下し、活性もそれに合わせて低下することがあります。
硫化物触媒
硫化物触媒は専ら石油精製での水素化脱硫反応に用いられます。 コバルトとモリブデンの複合硫化物(Co-Mo-S触媒)が主に用いられます。 機構はreverse Mars-van Krevelen機構に類似しており、触媒のS2-イオンの欠陥サイトにより有機硫黄化合物から硫黄原子が引き抜かれ、 硫黄を多く含む状態となった触媒が水素と反応して硫化水素が脱離し、S2-イオン欠陥サイトを含む触媒が再生します。 硫化物触媒は、硫化物構造を保つために有毒な硫化水素を共存させておく必要があるため、脱硫反応以外への利用はあまり行われません。
固定化触媒
均一系触媒として優れた性能を示す錯体を担体表面に結合させて固定し、不均一系触媒として利用する試みがされています。 シリカ表面と有機シラン化合物の反応でシリカ表面に炭素鎖を結合させることができ、炭素鎖の先に配位子を結合すれば固定化錯体となります。 他にも、ポリスチレンなどの有機高分子に配位子を結合させて固定化錯体が調製できます。 固定化触媒の最大の問題は安定性で、金属イオンの溶出や、固定化部位の分解を長期にわたり完全に抑えることは困難です。 また、活性も、元の錯体に比べ固定化することで低下してしまうことが多いです。 固定化された方が活性低下する状況では、錯体が溶出して溶液中で反応を行わせた方が活性が上昇してしまうので、活性が高い触媒を探索していたつもりが実は壊れやすい触媒を探索していた、という間違った方向に触媒開発が進んでしまいかねません。 固定化した方が活性が向上するような触媒設計が望まれます。
|(1)触媒の意義|(2)よい触媒とは| (3)触媒反応の機構|(4)触媒反応の分類| (5)均一系触媒|(6)不均一系触媒:金属触媒| (7)他の不均一系触媒|(8)担持触媒の調製法| (9)触媒の使い方|