中川教授の触媒学講座 (6):不均一系触媒:金属触媒
不均一系触媒
不均一系触媒は固体の触媒です。 代表的な不均一系触媒には、担持金属触媒、酸化物触媒、硫化物触媒、固定化錯体触媒、といったものがあります。 ほとんどの不均一系触媒は純物質ではなく、異なる組成の成分が触媒内に複数共存しています。 またその各成分についても、それぞれ形状が変われば性能は変化します。 純物質の不均一系触媒も、やはり形状が変われば性能は変化します。 そのため、不均一系触媒は組成や成分の構成比だけではなく、形状も考慮する必要があります。 形状については、粒子径、分散度、比表面積といった指標で数値化することが多いです。 ここで、分散度とは、表面に露出した活性成分の原子数と全活性成分原子数の比のことで、活性成分の粒子径に反比例する値です。 比表面積とは触媒全体の重量あたりの表面積です。 表面積は、液体窒素温度において窒素分子を多層吸着させ、BETモデルという手法で解析して求められる、窒素分子で1層埋め尽くしたと仮定したときの面積です。 多くの場合、粒子径は小さい方が(分散度は粒子径に反比例するので分散度は大きい方が)、比表面積は大きい方が優れていますが、常にそうとは限りません。個々の例ごとに傾向を説明します。
担持金属触媒
左から、Pt-WOx/SiO2, Pt/SiO2, WOx/SiO2。担持量はPt 4 wt%, W 0.9 wt%。
活性を示す金属を微粒子(数ナノメートル程度が多い)とし、担体と呼ばれる安定な物質の上に分散させて存在させた触媒です。 酸化還元が関わる反応に広く用いられます。 活性金属は白金など貴金属が多く用いられます。 これは貴金属表面が適度に安定であるためです。 一方、鉄やアルミニウムなど多くの非貴金属は、表面が酸化された状態が安定であるため金属触媒として働きにくいです。 また逆に、金属状態がとりわけ安定な金(Au)も触媒としては働きにくいです。 なお、非貴金属の金属状態を安定化させたり、Au微粒子の反応性を高める設計をすることで、並の貴金属とは異なる優れた性能が発揮できたりすることもあります。
担持金属触媒は金属と担体を組み合わせた触媒であり、化学式での表記は、「Pd/C」のように、”/”記号を用い、”/”の前に活性金属、”/”の後ろに担体を書きます。 文字による表記では、「炭素担持パラジウム触媒」のように、「担持」の前に担体を、後ろに活性金属を書きます。 組成は、活性金属重量の触媒全重量に対する百分率を”wt%”単位で表記して表すことが多いです。 例えば、5 wt% Pd/C は、重量比でPdが5%、Cが95%から成る触媒です。 担体の役目は多岐にわたり、活性成分の安定化、機械的強度の付与、熱移動の促進などが挙げられます。 また酸塩基性や金属への電子授受などを通して担体が反応に関わることもあります。
形状について、通常、活性金属はその金属粒子径が小さい方が優れた触媒となります。 これは、金属触媒は表面露出原子のみが反応に関与し、粒子径が小さければ粒子内に埋まって反応に参加しない原子の割合が小さくなる(分散度が大きくなる)ためです。 大まかには、表面露出原子の割合(分散度)は、粒子径に反比例し、100 nm・%を粒子径で割り算することで求まります。 例えば、5 nm金属粒子の分散度は約20%です。 さらに、反応によっては、同じ表面露出原子でも、結晶面同士が交わる辺や頂点の原子の方が活性が高くなることがあります。 これは、辺や頂点にある原子は配位数が小さく、不安定な状態におかれているためです。 粒子径が小さくなると表面原子数に対する辺や頂点にある原子数の比率は増加するため、反比例よりさらに大きく活性が増加します。 他にも、表面金属原子のうち、担体に接している原子の活性が特別高いという場合もあり、やはり似たように粒子径が小さくなることで反比例より大きく活性が増加します。 一方、目的反応と副反応で粒子径に対する活性変化が異なっていて、粒子径を小さくすることによる活性増加が副反応の方でより大きい場合、粒子径が小さくなると選択性が低下してしまうことになります。 このような場合は適度に小さい粒子径が最適となります。
担体については、同じ物質であれば比表面積が大きい方が優れた触媒になることが多いです。 これは担持された金属が微粒子をとりやすく、そして安定化されるためです。 ただし、多くの場合について、担体は反応には関わりません。 活性金属の表面原子はほとんどが担体から離れた位置にあるからです。 そのため、担持金属触媒においては、まず金属の粒子径による効果を考えます。 粒子径だけでは性能変化が説明付かない場合、はじめて担体による反応への影響を考慮します。
担持金属触媒の機構と速度式
担持金属触媒では、活性点となる表面金属原子に反応物が吸着し、吸着した反応物同士が反応する機構が一般的です。 また、担持金属触媒を含む不均一系触媒は一般に、均一系触媒と比べ、触媒と反応物の配位(固体においては「吸着」)が強いです。 そのため、反応物低濃度から触媒表面は反応物で覆われることになり、反応物濃度に対する次数は1次より小さくなることが多く、0次となることも珍しくありません。 なお、担持金属触媒では同一の表面吸着サイトを複数種類の反応物や生成物で奪い合う(競争吸着)ことも多いです。 競争吸着がある場合は、反応が進むとともに急激に速度が低下したり(生成物阻害)、片方の反応物濃度が高すぎるともう片方の吸着が阻害されかえって速度が低下したり、といった複雑な挙動となります。 吸着した反応物による反応と競争吸着を考慮したモデルがLangmuir-Hinshelwood機構で、担持金属触媒の速度モデルとして広く用いられています。 反応物が単一で、生成物との競争吸着を考慮しない場合、ミカエリス・メンテン機構と同じ形の式になります。
担持金属触媒を含めた不均一系触媒は、基本的に触媒量に比例する反応速度(触媒量に1次)になります。 触媒量に1次にならない場合は何か深刻な問題を抱えていることになるので要注意です。
担持金属触媒の劣化
担持金属触媒の劣化要因としては、代表的なものとして以下が挙げられます。
- 副生成物による劣化とコーキング
均一系触媒と同様、触媒と結合する副生成物が生成することにより劣化することがあります。 金属触媒では特に、炭素が大量に析出して触媒表面を覆うという副反応が気相・高温の反応で起きやすく、コーク析出またはコーキングと呼ばれています。 生成する炭素質(コーク)は金属表面を覆って活性を低下させるだけではなく、大量に析出することで触媒層を詰まらせたり物理的に破壊したりといった問題も引き起こします。 コークは燃焼により除去できますが(触媒再生)、高熱がかかる再生処理で構造変化を起こすリスク、 再生を頻繁に行うことになるとコストアップ、また担体が可燃性の炭素だと再生のための燃焼が適用できない、といった問題があります。 - 反応物不純物による劣化
金属触媒は長期間使用することが多く、また特に貴金属では活性点数が少ないため、反応物不純物による劣化は起こりやすいです。 特に、硫黄や金属元素化合物の不純物は、活性点と結合しやすく、ありがちな原因物質です。 自動車燃料は厳密な硫黄の除去が行われていますが、その目的は硫黄酸化物の排出削減に加えて排ガス浄化触媒の劣化防止にもあります。 また、かつてガソリンには異常燃焼抑止に鉛化合物が含まれていたのが今は使われなくなっています。 その理由も、有害な鉛の排出の抑制に加え、排ガス浄化触媒の劣化防止です。
反応物不純物による劣化が激しい場合は、触媒量に対する反応速度が原点から遅れて立ち上がる直線になるので、疑われる場合は触媒量に対する次数を確認するのが一つの方法です。 - 焼結(シンタリング)
反応中あるいはコークの燃焼除去操作時に金属微粒子が融合して大きな粒子に変化してしまい、活性が低下する現象です。反応温度が高いと起きやすくなります。 - 溶出(リーチング)
液相反応でしばしば起きる現象で、活性成分が溶液に溶け出したり、微粒子が担体から外れてコロイドとなって抜けてしまったりすると活性が低下します。 活性低下だけでなく、触媒成分により溶液が汚染されることも大きな問題です。
加えて、溶出が起きる状況では、「本当に真の活性点は固体触媒なのか? 溶出した溶液中成分が真の活性種だったりしないか?」というのが大きな問題になります。 高温かつ反応物が残っている反応中だけ溶出して溶液中で反応が進行し、 終わって反応物が消失したり冷ましたりすると再び不溶化して固体上に戻ってくる、といった場合もあり、そうなると反応後の溶液の元素分析では検知できません。 溶出した活性種による影響を調べるには、熱ろ過試験(hot-filtration test;反応温度下で固体触媒をろ過除去し、残った溶液だけで反応を続行させる)、 反応速度が触媒量に1次になるかの確認(溶出は固体と溶液の平衡となるため、溶出種の濃度は固体の量にあまり依存しない、そのため溶出種が活性種の場合触媒量には低い次数になる)、といった判定法があります。 - 担体の損傷
担持された金属ではなく担体の方が劣化してしまうこともあります。 高温水蒸気にさらされる、酸性の生成物にさらされる、機械的に摩耗する、といったことが要因になります。
不均一系触媒において劣化は深刻な問題で、実用触媒の開発は劣化との戦いであることが多いです。 劣化した触媒を構造解析して原因を突き止め、担体の変更や活性金属種への添加物の利用などにより劣化抑制を試みることになりますが、 それでも抑えきれず実用化できない、ということは少なくありません。
近年のトピックス:単原子触媒と単原子合金触媒
上でも述べましたが、担持金属の結晶粒子の辺や頂点位置にあるような配位数の少ない表面原子が高活性となることで、 粒子径を小さくすると表面露出原子数が増加する分以上の活性増加となる場合があります。 配位数の少ない金属原子の究極の形態は原子1個が孤立して担体上に存在している状況で、このような触媒を単原子触媒(single atom catalyst; SAC)と呼び、極めて高活性が期待できます。 粒子状金属が存在せず孤立した金属原子のみが存在している状況であれば、触媒上のその金属はすべて同一状態にあるということなので、特異的かつ高い選択性も期待できます。 ただ、イオン状態であれば金属イオンが孤立して存在しているのはごく普通なので、金属状態(0価)で孤立している状態であることが条件です。 配位数が少ないというのは結合数が少なく不安定ということなので、担体にはそのような孤立原子を安定化させるポケット状のサイトが必要です。 なお、いわゆる普通の担持金属触媒でも、金属の一部は孤立した単原子状態にある可能性はあって、ごく一部とはいえその単原子サイトが高い活性を示すため全体の触媒性能に大きく影響を与えている、ということはあり得ます。 金属触媒全般の理解を深めるためにも、単原子触媒の研究の進展が望まれます。
また、配位数が最小である孤立原子から成る単原子触媒とは別の概念として、 合金粒子中に活性金属原子が孤立して非活性成分金属原子に囲まれて存在している、単原子合金触媒(single atom alloy catalyst; SAA catalyst)と呼ばれる触媒も近年研究されています。 配位数としては普通の金属触媒と同程度となるものの、配位状態は通常の金属触媒と異なり、かつ触媒内で均一となることから、やはり特異な活性や選択性が発現する可能性があります。 また安定性も単原子触媒に比べれば高くできると期待できます。
|(1)触媒の意義|(2)よい触媒とは| (3)触媒反応の機構|(4)触媒反応の分類| (5)均一系触媒|(6)不均一系触媒:金属触媒| (7)他の不均一系触媒|(8)担持触媒の調製法| (9)触媒の使い方|