中川教授の触媒学講座 (5):均一系触媒
均一系触媒
代表的な均一系触媒は、均一酸(硫酸など)や錯体です。 均一塩基もありますがあまり使用例は多くありません。 なぜなら、触媒が扱う反応物や生成物は酸性を示すことが割と多く、均一塩基は中和されて消費してしまうので触媒量では進まないことが多いためです。 また、パラジウム触媒を用いた反応など、反応中の触媒が錯体で溶解した状態と固体の金属状態が相互変換する状況もあり、これも均一系触媒に含めます。
PdCl2とCuCl2の塩酸溶液で、反応中Pd金属のコロイド粒子が形成して共存
均一系酸触媒による反応は、アルコールとカルボン酸からのエステル合成反応、アルコールの脱水反応といった有機化学の非常に基本的な反応が多く含まれます。 錯体触媒を用いた均一系反応は酸塩基反応、酸化反応、還元反応、重合反応など多岐にわたります。
均一系触媒の機構と速度式
均一系触媒の典型的な機構は、触媒が反応物の片方(Aとします)と結合して活性化させ、続いてもう片方の反応物(Bとします)が衝突して反応が進む、というものです。 多くの場合、Aの活性化の平衡は原系(左側)に偏っており、「活性化されたA」の濃度は触媒濃度、Aの濃度双方に比例します。 続くBとの反応は、反応が起こる衝突の頻度は「活性化されたA」の濃度とBの濃度双方に比例します。 結局、触媒、A、Bいずれにも1次の反応速度を示すことになります。
Aの活性化の平衡がそこそこ右に進んでいる場合もあります。 特に、酵素による反応では、酵素が反応物を特異的に活性化する構造を持っているためこのケースに当てはまりやすいです。 この場合、触媒濃度とBの濃度には1次になりますが、Aの濃度に対しては1次より小さい次数になります。 ミカエリス・メンテン速度式という速度式により詳細に解析することができます。
貴金属錯体触媒を用いた反応では、金属中心上の2箇所の配位サイトを利用し、配位子同士の反応や、配位した基質が2つの配位子に分解するような機構で進行するものもあります。 この場合の全体の反応速度は最も遅い素反応段階で決まり、速度式は状況次第です。
上記どの反応でも、触媒濃度に対しては本来1次になります。 しかし、金属錯体が多量化したり、配位子が一部外れたりして、触媒活性を示す化学種が触媒の一部だけしかないケースもあります。 その場合、触媒濃度により活性を示す種の割合が変化して、反応次数が1次からずれることもあります。
均一系触媒の劣化
均一系触媒の劣化要因としては、代表的なものとして以下が挙げられます。
- 副生成物との反応による損失
塩基性生成物が副生することで酸触媒が中和されてしまう、水や金属中心に強く配位する有機副生成物が生成することで配位サイトが塞がれて活性が失われてしまう、といったようなケースです。 - 反応物不純物との反応による損失
反応物中に上記副生成物のような成分が微量含まれていて、反応物を追加して触媒を使い続けていくうちに活性が下がっていくことがあります。 - 配位子の分解
有機物である配位子が反応して変化してしまうことで錯体の状態が変わり、活性が低下することがあります。 特に酸化反応では起こりやすいです。 酵素を錯体でモデル化したような触媒でも起こりやすいです(酵素では反応性の高い活性中心にアミノ酸鎖が接触しないようにうまく構造が組み立てられているが、普通の錯体では配位子と活性中心との衝突が避けられない)。 - 価数の変化
錯体の金属中心が特定の価数でないとうまく反応しない状況で、金属中心が有機物で次第に還元されたり空気で酸化されたりするなどで価数が変化してしまって活性が失われる場合があります。
均一系触媒が劣化してしまった場合、劣化した触媒の構造解析により原因を特定し、対策を考えます。 副生成物や不純物に由来するならそれらを除去する吸着剤を添加する、不純物を除去した反応物を用いる、配位子を化学修飾して安定性を上げる、雰囲気制御で価数を保つ、といった対策が考えられます。 構造解析法としてはNMRが強力な武器となることが多いです。
|(1)触媒の意義|(2)よい触媒とは| (3)触媒反応の機構|(4)触媒反応の分類| (5)均一系触媒|(6)不均一系触媒:金属触媒| (7)他の不均一系触媒|(8)担持触媒の調製法| (9)触媒の使い方|