中川教授の触媒学講座 (2):よい触媒とは
触媒を評価する上で、「触媒の三要素」と呼ばれる3つの重要な指標があります。 それは「活性」「選択性」「寿命」です。 活性は反応速度の向上度合いで、どれだけ目的反応を促進したかです。 選択性は、目的反応と望ましくない副反応との速度比で、どれだけ副反応が少ないかです。 寿命はどれだけ触媒を使い続けられるかです。
ほとんどの触媒反応は、無触媒では反応が進行しない条件で行います。 そのため、反応速度を触媒量で割った値が活性の指標となります。 特に、この割り算の分子側(割り算の上)にあたる反応速度としてモル基準で求めた反応初期速度、分母側(割り算の下)にあたる触媒量に活性点のモル数を用いて計算した値を「ターンオーバー頻度」と呼び、活性の指標に用いられます。 ターンオーバー頻度 (turnover frequency) はTOFと略されることが多く、時間にマイナス1次の次元を持ちます。 なお、反応速度に基質(目的生成物の原料として着目する反応物)の減少速度を使うか、または目的生成物の生成速度を使うか、 活性点数をどのように定義するか、といったことでTOFの値は変わるので、TOFを使う際や読む際は、TOFの定義式を記載および確認する必要があります。
選択性は多くの触媒反応で最も重要な指標です。 副反応が多いと無駄ばかりとなり実用的ではなくなります。 収率(生成物量と投入基質量の比)の限界を決めるのはおもに選択性です。 選択性はすべての副反応を含めて考えるので、すべての副反応を抑制しないと選択性は上がりません。
寿命は触媒をどれだけ使い続けることができるかで、実用上きわめて重要な指標です。 生成物量と活性点数のモル比で定義される「ターンオーバー数 (Turnover number; TON)」が代表的な評価値で、ターンオーバー数はターンオーバー頻度を反応時間で積分することで得られます。 寿命を短くする要因は多岐にわたり、対処法も様々で、後で独立した項目で説明します。
触媒の三要素はどれも重要ですが、しいて順位を付けるなら、選択性 > 寿命 > 活性 となります。 活性が低くても、寿命が長ければ反応時間を長くすることで対処できます。 原料・生成物がとても高価な精密有機合成における触媒は極端な場合で、選択性さえ良ければ、寿命の短さと活性の低さを触媒の大量消費でカバーすることも許されます。 一方、大規模な工業プロセスでは、三要素どれも低いことが許されません。
もちろん、触媒の評価としては、コストも非常に重要です。 触媒自体の価格に加え、毒性や廃棄物対応のコスト等も含めて考えることになります。
|(1)触媒の意義|(2)よい触媒とは| (3)触媒反応の機構|(4)触媒反応の分類| (5)均一系触媒|(6)不均一系触媒:金属触媒| (7)他の不均一系触媒|(8)担持触媒の調製法| (9)触媒の使い方|